陰嚢部痛 たまたまが痛いのはなぜ?-大和クリニックー木更津市の泌尿器科

ある男の子の出来事

13才のC君は、明け方急に目が覚めた。左の玉がものすごく痛い、気持ち悪い。お母さんを呼んだ。救急車で運ばれた。玉がくさるかもしれないから手術が必要と言われた。手術はうまくいき、玉は無事だった。

 陰嚢部痛 (たまたまが痛いとき)はどんな原因があるのでしょうか?

陰嚢に原因がある病気か、陰嚢外に原因がある病気かを考えます。陰嚢内に原因がある病気では、捻転などに伴う組織の血流障害による阻血、うっ血から来る病気、まず精巣捻転症がないか確認します。精巣付属器捻転症がないかどうか?次に炎症から来る病気、精巣上体炎はないか?精巣炎はないか?IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)はないか?壊死性筋膜炎がないか?など確認します。その他の原因として、精索静脈瘤はないか?精巣腫瘍はないか?などを考えます。陰嚢外に原因がある病気としては尿管結石はないか?腰に起因する病気はないか?など確認していきます。

 精巣捻転症 とはどういう病気ですか?

自然に治癒した過去の虚血エピソードに関連した陰嚢痛の既往があるとき、精巣位置異常、精巣挙上持続(玉がずっと持ち上がった状態(横向きとか)の時、精巣挙筋反射が消失した状態(ふとももの内側、陰嚢に近い部位をピンなどでこすると同じ側の挙睾筋が収縮して玉が上がる反射)の時などがある場合、精巣捻転症の疑いがあります。左の方が右より2~3倍多く発生するという報告もあります。左の精索の方が右精索より長いためです。停留精巣では精巣捻転症が起こりやすいとされています。また停留精巣では、不妊症や精巣腫瘍の発現の頻度が増します。
新生児、乳児期と思春期に起きやすく、玉(精巣)の栄養をつかさどっている管がねじれて、玉とその玉の主に後ろにある器官(精巣上体)に血流障害が起き、放置すれば玉などがくさってしまう病気です。玉から下腹にかけての痛みで、夜とくに明け方に多く起きます。しばしば気持ち悪さを伴います。自然にねじれが元に戻ることがありますが、一般的に早く(6~8時間以内)ねじれをもとに戻すことが必要です。ねじれの程度が強いときは起きてから4時間以内にねじれをとっても、玉が萎縮することもあると言われていますので、時間との勝負になります。精巣の超音波検査などをした後、早急に精巣血流改善のため用手的整復を試みます。ただし整復できても自宅に帰るとまた再度捻転がおき治療が遅れる可能性があるため、手術(精巣固定術)を行います。捻転を解除できなければ、直ちに手術を行います。

 精巣付属器捻転症 とはどういう病気ですか?

精巣垂(精巣に付属している小さな組織片)、精巣上体垂(精巣上体に付属している小さな組織片)がねじれて痛みを起こす病気です。学童期、思春期に好発します。ふつうは1~2週間で無症状になります。精巣捻転症と区別がつかないときは手術が必要になります。捻転した組織片は小豆大の硬結として触れることもあります。経過の初期に陰嚢の皮膚を注意深く観察すると、陰嚢皮膚を通して暗青色の所見(blue dot sign)を認めることもあります。超音波で検査します。基本的には鎮痛剤を使用しながら、手術をしないで経過をみていきます。炎症・疼痛が遷延するときは、切除も考慮します。

 精巣上体炎 とはどういう病気ですか? 

精巣捻転症や精巣付属器捻転症と鑑別しなければいけない病気です。超音波検査が役立ちます。
玉の後ろ側が腫れ(ひどくなると精巣上体と精巣の区別がつかなくなり、一塊として腫れます)、赤くなり、痛みがあります。ふつう熱が出ます。捻転症とくらべて、概して発症は緩やかです。おしっこの中に膿や細菌が認められることが多いです。血液検査で白血球が上昇していることが多いです。(捻転症でも上昇していることがあります)また体内で炎症が起きたり組織細胞に障害が起こると上昇するCRPが上昇したり血沈が亢進することもあります。膿尿(尿中に多数の白血球がある)は10%程度認めます。尿培養などで細菌感染がわかるのは20%程度という報告もあります。尿道炎から精管を通じて逆行性に感染したものが多いです。若年層ではクラミジア感染症、淋菌などの性感染症として、高齢者では大腸菌などの一般細菌が原因として多いです。治癒後、精管(精子の通り道)の通過障害を起こすこともあり、両側に起きたときは不妊症の原因となります。精巣炎を合併することもあります。ほとんどのケースで抗菌薬の投与となります。
急性精巣上体炎に対する抗菌薬が効かなかった場合、陰嚢皮膚を穿破し排膿があった場合には精巣上体結核(結核菌による精巣上体炎を)考えなければいけないです。精巣上体結核は通常片側性で、緩徐な発症で、一般の精巣上体炎に比べると、疼痛は軽微で、発熱はないことが多いです。

 精巣炎 とはどういう病気ですか? 

細菌性(精巣上体炎に続発が多い)のものもあります。淋菌、先天性梅毒、結核菌、コクサッキーウイルスなどでも起こりますが、一般的にはムンプス精巣炎が有名です。玉が腫れ、痛みが有り、赤くなり、触ると熱いです。倦怠感,発熱,悪心,頭痛,筋肉痛などの全身症状が出現することがあります。ここでも超音波検査が役立ちます。
ムンプスとは流行性耳下腺炎で一般的にはおたふくかぜと呼ばれているものです。
耳下腺の腫脹より4~10日前後して精巣炎が出現します。思春期以降では30~40%に精巣炎が合併します。ただ耳下腺の腫脹を伴わないで精巣炎になる例もあります。普通は片側だけですが、10~30%が両側性です。最初は片側でも次いで他の側にも起こることもあります。ムンプス精巣炎の30~50%に精巣の萎縮や無精子症を来すと考えられています。受精能の低下は13%程度に認められますが、不妊を来すことはまれと言われています。お子さんがおたふくかぜにかかり、その後お父さんにうつり、お父さんが精巣炎を起こすこともあります。ムンプスワクチン接種が行われるようになってから、頻度は減ってきています。85%が精巣上体炎を合併します。細菌感染と鑑別する所見として、尿沈渣で白血球の出現が軽度であること、採血所見で、他のウイルス疾患と同様にCRPの上昇と比較して、血液中の白血球数は正常値または軽度上昇のみであることなどがあげられます。
治療は細菌性のものは抗菌薬の投与、ムンプス性ものは抗ウイルス薬がないため症状に対する治療となります。

 精索静脈瘤 はどういう病気ですか?

痛みは鈍い痛み、不快感、違和感などで表せます。精索静脈瘤の原因は定かではありません。一説によれば静脈の逆流を防ぐ静脈弁の異常、静脈弁の機能不全などが原因かもしれません。下肢に出来る静脈瘤と似ています。玉の上、横に植物のつるの様に網目状の蔓状静脈叢に血液がたまり、モコモコしているように見えます。触診で精巣と精巣上体は正常(まれに精巣の腫大あり)です。立位、腹圧負荷時(おなかに力が入った時)の方が、より静脈が拡張します。ここでも超音波検査が役立ちます。一般男性では10%~20%、思春期の男性では2%~15%の発生率です。この静脈には右は腎静脈より下方で鋭角的に下大静脈に流入し比較的抵抗が少ないのに比べ、左は腎静脈に直角に流入しスムースに流れないため、通常は左側に発生します。両側のこともあります。20%が男性不妊を引き起こします。また精巣の萎縮を起こすこともあります。特に男性不妊を起こしているときに手術をすることがあります。

 IgA血管炎 (ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)はどういう病気ですか?

触れることのできる皮膚の紫斑(palpable purpura)がみられます。腎炎、腹痛、関節痛がみられることのある疾患です。細菌・ウイルス感染、薬剤、妊娠、悪性腫瘍などが誘因と考えられています。小児の本症の約半数は上気道(咽頭・喉頭)感染症に続いて発症します。通常20歳以下の患者に発症し、4~5歳に発症のピークを迎える全身性血管炎です。ヘノッホ・ションライン紫斑病は、2%~38%の症例で陰嚢を侵すと報告されています。陰嚢の皮膚の著しい浮腫、精巣上体腫大、陰嚢水腫がありますが、精巣の血流は保たれています。

 特発性陰嚢浮腫 とはどういう病気ですか?

原因不明(アレルギー、化学物質による接触性皮膚炎、虫刺症、外傷などの関与が考えられています)に陰嚢壁肥厚をきたす病気です。10才以下の学童に起こります。ほとんどが5歳から8歳で,急性の陰嚢の発赤と腫脹を呈し,軽度の疼痛を伴うか伴わないかです。無熱で、全身状態は良好です。病変は2/3が両側性,1/3が片側性です。病変は2~3日以内に自然消退し,後遺症は認められません。約10%の症例が再発を経験しています。超音波検査で陰嚢壁肥厚が認められます。

 精巣腫瘍 とはどういう病気ですか?

精巣に発生する腫瘍で、悪性腫瘍と良性腫瘍があります。無痛性の陰嚢腫瘤として現れることが多いですが、急速に成長する精巣腫瘤、特に内出血や梗塞部位を伴うものは、陰嚢の痛みを呈することがあります。

 尿管結石 とはどういう病気ですか?

尿路結石症は腎臓から尿道までの尿路に結石が起きる病気です。そのうち尿管に起きたものを尿管結石といいます。上部尿管と精巣の両方からの感覚線維は、脊髄分節T11とT12を通過します。したがって、上部尿管の膨張(例:尿管結石による)は精巣への関連痛を引き起こし、下部尿管の膨張は同側の陰嚢痛を引き起こす可能性があります。

陰嚢部痛を引き起こすその他の病気にはどう言う病気がありますか?

陰嚢部痛のその他の原因として、外傷、動物の咬傷、虫刺症、陰嚢水腫、精液瘤、精管切除術後、腹膜炎、陥入ヘルニア、腹部大動脈瘤破裂、壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)、蜂窩織炎などがあります。
また腰の病気からくるものもあります。

診察はどうしますか?

陰嚢の視診、触診などを行います。

突然の痛み、悪心、嘔吐などがある場合精巣捻転症の疑いがあります。陰嚢部痛の既往、陰嚢部の腫れ、陰嚢部のむくみ、陰嚢部の硬さ、発赤、陰嚢皮膚の色、玉がずっと持ち上がった状態(横向きとか)、精巣挙筋反射(ふとももの内側、陰嚢に近い部位をピンなどでこすると同じ側の挙睾筋が収縮して玉が上がる反射)があるかないかなど診察します。精巣捻転症でも、同じ側の下腹部痛だけを訴える場合もあります。精巣上体炎、精巣炎などの炎症では発熱を訴える場合があります。精索静脈瘤は立位、腹圧負荷時により目立ちます。

検査はどうしますか?

これらの疾患の鑑別には陰嚢の超音波検査が有用です。また採血、検尿、CT、MRIなどを場合に応じて行います。

治療はどうするのですか?

それぞれの疾患に応じてその治療を行います。

TEL:0438-25-2515